理想のチームをつくる採用の秘訣 |そよぎハート&ライフクリニック湘南平塚 村本容崇院長

クリニックの成長において、「採用」は避けて通れない大きな課題のひとつです。開業時にどのような人材を迎え入れるか、そしてどのようにチームをつくり、維持していくかが、クリニックの未来を左右するといっても過言ではありません。
今回は、2024年5月に神奈川県平塚市で開業した「そよぎハート&ライフクリニック湘南平塚」の村本容崇院長と、採用支援を手がける株式会社DTGの岩本修一の対談をお届けします。
「採用面接まで1ヶ月を切ったタイミングで不安しかなかった」と語る村本院長が、どのように採用活動の意識を変え、チームとともに採用を進めていったのか。採用要件の設定、面接の工夫、採用サイトの活用、そして「採用を楽しむ」ためのマインドセットなど、クリニックの採用成功のポイントを深掘りします。
開業準備に追われる中で直面した採用の壁。採用は「ちょっとしたひと手間」で変わる!?
―― 採用面接を3週間後に控えたタイミングで、村本院長はDTGの採用支援サービスを導入されました。そのきっかけや、当時の状況、どのような思いを抱えていたのかをお聞かせください。
村本院長(以下、村本): 開業に向けて、何より大切なのはスタッフだと考えていました。だからこそ、採用には力を入れるつもりだったんです。でも、実際は開業準備に追われ、採用のことをじっくり考える時間が取れないまま。気がつけば面接まで1ヵ月を切り、「本当に人が集まるのか?」「僕の想いや目指すクリニックの姿が伝わるだろうか?」と不安が募るばかりでした。
開業した先生方に話を聞くと、口をそろえて「結局、人の悩みが一番大きい」「採用しても1年で辞めるのが普通だよ」と言われることが多く、「やっぱりそういうものなのか」と半ば諦めモードに。せっかく採用しても共感してくれる人は少なく、「すぐに入れ替わってしまうんだろうな…」と、投げやりな気持ちになっていました。うまくいくイメージなんて、まったく湧いてなかったです。
DTG岩本修一(以下、岩本):実際、私が相談を受けたときも、村本先生は「開業しても1年でスタッフが辞めてしまう」というイメージでいっぱいでした。でも、その時点ではまだ開業前、しかも採用面接すら始まっていない状況です。「確かに、採用して1年以内に辞めることはよくある話ですし、全員が長く働けばいいというわけでもありません。ただ、先生、まだ開業前です! 面接はこれから。やれること、まだまだありますよ!」とお伝えしたのを覚えています。
一般的に、開業時の採用は、知り合いへの声かけを除くと、開業コンサルティングや人材紹介を使って人を集めるだけというケースも少なくありません。でも、それだけだと、どうしてもいわゆる“頭数合わせ”の採用になってしまう傾向があります。開業前は資金面や設備準備などで手一杯になるので仕方ない部分もありますが、ほんの少し手をかけるだけで、採用の質は大きく変わるんです。
村本先生が心エコー検査の説明で、「エコーの動画を見せながらの説明」という「ちょっとしたひと手間」を加えると、患者さんは理解がより深まり、行動変容にもつながるという話をしていました。それと同じように、採用でも少しだけ工夫することで、共感してくれるスタッフと出会う確率はぐっと上がるんです。
実際、面接までにやれることはたくさんありました。そして何より、村本先生はスイッチが入った瞬間の行動力がすごい! 一度決めたら、驚くほどスピーディーに動かれていました。その姿勢があったからこそ、採用活動も大きく変わって、採用の結果にもつながったのだと思います。
―― 村本先生のスイッチが入った瞬間には、どんなきっかけがあったのでしょうか?
村本:岩本先生から、「いま、村本先生はマイナスのイメージに引っ張られすぎているかもですね。きっと先生が『こんなふうにやりたい!』と心から思っていることを発信すれば、それに共感する人が集まってきますよ」と言われたんです。さらに、「面接の場でも、実際に先生の姿や言葉から伝わるものがあるはず。だからこそ、残りの期間と面接当日を、いかに良い状態で迎えられるかがすごく大事」と。
その言葉を聞いて、「たしかにそうだ!」とハッとしました。それまでの自分は、採用活動に対してすっかり自暴自棄になっていて、「1年後には辞めているかもしれない人を探している」みたいな気持ちでいました。でも、そんな状態の自分のもとに、人が集まるはずがない。そう気づいたんです。
だったら、今できることをポジティブにやろう。自分自身が面接当日に最高の状態で臨めるように準備しよう。そう思えた瞬間に、気持ちが切り替わりました。
岩本:そうでしたね。それをきっかけに、自然と「採用要件」を具体的に考える流れになりました。
採用要件の明確化が成功の鍵
―― 採用要件を決めるにあたって、どのようなステップを踏んで整理していったのでしょうか? その過程で大事にしたことや、特に意識したポイントがあれば教えてください。
村本:基本的に、採用はマインドを重視しようと決めていました。でも、岩本先生から「マインドが大事なのは前提としても、能力や経験についての要件を決めておくことは必要ですよ」と言われたんです。クリニックで求める最低限のスキルや経験があるはずで、それを言語化することが大切だと。
そこで、岩本先生と壁打ちをしながら「どの程度の経験が必要か?」「採血はできた方がよいですかね」と、結構細かく、たくさん問いをもらいながら、自分の中で「このくらいのスキル・経験を持つ人が望ましい」という基準を整理していきました。結果として、採用要件がある程度固まっていたからこそ、面接当日はマインドに全振りして判断できたんですよね。
岩本:採用要件を決める際、多くの人は「これまで一緒に働いた中で最も優秀だった人」を基準に考えてしまいます。でも、実際にはそういう人が必ずしも応募してくるわけではありません。採用要件を細かく決めることも大切ですが、同時に「どこかで区切りをつけること」も重要です。理想ばかりを追い求めると、なかなか採用が進まなくなってしまいますからね。
そこで、「もし理想の人材ではなかった場合はどうするのか?」という視点も持ちながら、「入職時に必要な技術・マインド」について話を進めていきました。村本先生の場合は、採用要件について2回だけ話して決めたら、あとは採用サイトや面接について話すときに立ち返る感じでしたね。
村本:開業時から副院長の山口先生らとチームとして採用活動を進めました。採用要件を言語化すると、チーム内で「どういう人を採用したいのか?」が共有しやすくなり、採用活動全体の方向性が明確になりました。それによって、「どんなメッセージを発信すれば、求める人に届くのか?」を考えやすくなり、面接で何を確認すべきかも整理されていきました。漠然と「なんとなくいい人」と思うだけでは、採用活動はうまく進まないんですよね。
この採用要件を決める作業には当初思っていたよりも時間がかかるし、その間は前に進んでいる実感が湧かないこともありました。でも、ここをしっかり詰めたからこそ、その後の選考がスムーズに進みました。
岩本:実際、採用では「来てくれた人の中から選ぶ」ことになります。そのとき、採用要件がしっかり決まっていれば、「基準をクリアしているから、この人を採用しよう」と納得して判断できます。もちろん理想の人材がすぐに見つかるとは限りませんが、明確な基準があることで、採用の軸がブレずに済むと考えます。
採用サイトの活用で伝わるクリニックの魅力
――採用面接当日に向けて、人材像の整理とともに、Notionを活用した採用サイトを作成されました。採用サイトの制作と運用について、どのような手応えがありましたか?
村本:すでに人材紹介会社経由で募集はかけていましたが、そこには自分自身のメッセージを伝える場がなかったんです。岩本先生から「院長の想いをきちんと伝えましょう」と言ってもらい、原稿を作成し、さらに写真も載せることにしました。実際に面接に来てくれた方からも「クリニックの採用ページに医師の写真が載っていないことが多い中で、ここはしっかり院長の写真もあり、メッセージも伝わってきました」と言ってもらえて、効果を実感しましたね。
専用の採用サイトを持っている医療機関は少ないので、それもあって多くの方に見てもらえましたし、実際に応募者も増えました。採用サイトは、Notionをつかって、岩本先生にサポートしてもらいながら作成しました。
岩本:Notionでの採用サイト制作は、それほど時間はかかりません。大切なのは「どんな人に来てほしいのか」「何を大事にしているクリニックなのか」といったメッセージをしっかり伝えることです。条件面の情報を充実させるのはもちろん重要ですが、理念やビジョン、業務内容が伝わる形にすることを意識し、「ここをしっかり伝えていきましょう!」と進めていきました。
最近では、村本先生や採用チームのみなさんも採用サイトに直接手を入れてますよね。途中の提案や調整、最終的な本番展開は弊社でサポートさせてもらっていますが、自由にテストページを作り、Notionをしっかり使いこなしていらっしゃるので素晴らしいと思います。いずれは内製化できるようになりそうですね。
村本:実際に自分たちで採用サイトを作り込めるのが、Notionによるウェブサイト制作の良さだと感じています。先日、試しに「こんなふうに募集を出すけど、魅力が伝わるかな?」とスタッフに相談してみたところ、いろいろアイデアをもらいました。その流れで「じゃあこんな写真も載せようか」とか、「こういう文章を追加してみよう」など、採用サイトの充実にもつながりました。みんなで作っていく感覚がもてることに、とても魅力を感じています。
面接はマッチングの場! 質問の掘り下げが生む本質的な対話
―― 面接の方法については、どのような工夫をされたのでしょうか?
村本:面接のやり方についても、岩本先生に相談しました。その中で教えてもらったことで、特に意識したのは、「具体的に掘り下げる」ということです。たとえば、「あなたが仕事をするうえで大切にしていることは何ですか?」と聞いたら、すぐ次の質問に移るのではなく、「それって具体的にどういうことですか?」とさらに深掘りする。エピソードや行動を聞くことで、本当にその人の考えや価値観が見えてくるんです。
考えだけなら誰でも言えるけれど、実際の行動を具体的に聞くと、その人がどのような場面でどのようなことをしてきたのか、その背景で何を考えているのかがわかります。事前に用意してきた話をしていた人も、途中から自身の経験を話してくれます。そういう点を意識して、いまも面接では質問を工夫していますね。先日、職員と採用面接のときの話になって、「(当時は)具体的に聞かれるから、こわい先生だと思った」と言われました(笑)。
岩本:面接は「採用する側」が一方的に選ぶ場ではなく、双方のマッチングの場です。だからこそ、深掘りする質問はすごく大事。スタッフの方から言われた、面接での「怖い」という感想は、恐怖というよりも、「見られている」「ちゃんと答えないといけない」という緊張感のことを言っているんじゃないかと思います(笑)。
候補者にとっても、自分が思っていた仕事と実際の業務がズレていないかを確認する機会です。お互いに「この環境で働けるか?」をしっかり見極めることが大切ですね。
ーー当初は採用活動に対してネガティブな印象を持たれていた村本先生ですが、今では前向きに取り組まれている印象です。採用を進める中で、どのような楽しさを感じるようになりましたか?
村本:いまは、採用活動を楽しめていますね。何より、採用チームのスタッフと一緒に進められることが大きいです。採用サイトの制作・更新もそうですし、応募者とのやりとり、面接や見学対応なども、チームで考えながら進めています。スタッフが主体的に動いてくれるので、評価基準を作ったり、実際の評価をしたり、定期的に会議を開いたりと、単なる採用活動を超えた「チームづくり」の要素が強くなっていると感じます。
また、これまでの成功体験が、採用を楽しめる理由のひとつになっています。開業時に採用したオープニングスタッフは、現時点で誰一人として辞めていません。だからこそ、「きっとまた良い人が来てくれる」「こんな素敵な仲間を増やしたい」と、ポジティブな気持ちで採用に向き合えています。一般的に、採用は「人が抜けた穴を埋めるもの」というイメージがありますが、僕たちの場合は、そうではなく「仲間を増やす」ための前向きな活動になっていますね。
―― DTGの採用支援を受けた率直な感想(良かった点、不足していた点)はありますか?
村本:正直、不満に思う点はありませんでした。ただ、採用要件や採用活動をつくるところは準備に時間がかかるので、それを手間に感じる人もいるかもしれませんね。僕自身は楽しみながら進められましたが、人によっては「採用要件を細かく詰めるのが面倒」と感じることもあるかもしれません。
でも、結局、採用に限らず何事も「しっかり準備するかどうか」が結果を左右します。要件を細かく詰めるのは、後々のスムーズな採用につながるので、むしろ必要なプロセスだと思います。
基本的には、岩本先生と楽しく進められたので、そこが一番良かった点ですね。
岩本:何かをやるときには、「時間」や「お金」をかける必要があります。どちらも惜しんでしまうと、うまくいかないんですよね。村本先生の場合、そこを惜しまず「しっかり準備する」という姿勢があったからこそ、採用もうまくいったんだと思います。
弊社ではその方法論の提供とお手伝いをさせていただいただけで、結局、採用がうまくいくときは、院内の担当者の方々のおかげです。外部の支援だけで完結するものではなく、内部でもしっかり取り組むからこそ、結果につながります。採用支援を検討している方には、ぜひ「ひと手間をかけた後にうまくいく感覚や体験」を知ってもらいたいですね。
自院の採用をもっと良くしたいと思っている方へ
―― いま、採用を検討している医療機関に伝えたいメッセージはありますか?
村本:採用で悩んでいたり、採用の体制をつくるなら、DTGの採用支援は「絶対入れたほうがいい」と思います。もし何も準備せずに進めていたら、失敗していたかもしれません。だからこそ、「これはオススメです」と伝えたいですね。
採用支援を通じて、ただ採用活動を進めるだけでなく、「採用される側はどう感じるのか?」という視点を学べたことも大きな収穫でした。採用する側の都合だけでなく、求職者の立場に立って考えることの重要性を改めて実感しましたし、面接や採用活動全般が一方的にならないよう、候補者の意見を取り入れることの大切さも学びました。
当院の経験を事例として使ってもらえたらと思います。採用で悩んでいる方には、ぜひ積極的に取り入れてもらいたいと思います。
岩本:クリニックでの採用活動は、たいてい「スタッフが辞めたから補充しなきゃ」というタイミングで始まることが多いんです。でも、直近でも、村本先生は、「人が辞める前」から動き出しています。少しの余裕をもって採用活動を進めていくのが、よい採用を進めるコツでもあります。
実際、院長が診療をしながら採用活動を進めていくとなると、本当に人が足りなくなるまで1ヵ月しか期間がないということも多く、短期間でできることは限られてしまいます。しかし、採用の必要性を見越して、前回決めたことを利用し、前もって相談し、スタッフの意見を聞きながら進められたことで、結果的に良い採用につながっていますよね。
しかも、採用要件を院長やスタッフ自身が考えたことで、それが組織の中にしっかりインストールされている。「そろそろ人が必要だな」と思ったときに、「前はこんな人を採用したけど、今のクリニックにはこういう人が合うかもしれない」と、自分たちで判断しながら進められる。スタッフと一緒に話し合いながら、採用の方向性を決められるのは、すごく理想的な形だと思います。
―― 最後に、今後のビジョンと、これから一緒に働く仲間に向けたメッセージをお願いします。
村本:おかげさまで、患者さんも増え、新たなスタッフも加わるなど、クリニックとしての成長を実感しています。ただ、私たちが目指すのは「規模を大きくすること」ではなく、「質を高めること」です。
良い医療を提供し続けることで、自然と患者さんが増え、スタッフも集まり、結果としてクリニックが発展していく。何人の患者さんを診れるか、どれくらいの売上を目指すか、といった数字ではなく、「患者さんに寄り添い、より良い医療を届けること」にこだわっていきたいと考えています。
ビジョンとしては、「生活習慣病の治療なら、ここに行こう!」と地域の方々に思ってもらえるクリニックを目指しています。そして、「平塚に住んでいてよかった」と感じてもらえるような医療を提供していきたいです。
私たちは「誰もが自分らしく輝けるクリニック」を目指しています。「誰もが」というのは、患者さんだけでなく、スタッフも含まれます。患者さんに対しては、単に病気を治すだけでなく、その人の価値観を尊重し、その人らしく生きられる医療を提供すること。そして、スタッフにとっても、「このクリニックで自分の強みを活かし、社会に貢献できている」と実感できる場でありたいと考えています。
これから一緒に働く仲間とも、この理念を大切にしながら、互いに支え合い、成長していきたいですね。一緒に、自分らしく輝けるクリニックをつくっていきましょう。
この記事の登場人物
◯ 村本容崇(そよぎハート&ライフクリニック湘南平塚 院長|循環器内科医) 2003年信州大学医学部卒。飯塚病院にて初期研修、同院の循環器内科を経て、2007年より国立循環器病センター心臓血管内科レジデントとして循環器診療を学ぶ。2010年より平塚共済病院心臓センター、循環器内科に勤務。不整脈診療(カテーテルアブレーション、デバイス治療)を主として、多職種心不全チームの立ち上げ、心臓リハビリテーションなどに従事。2024年5月より、そよぎハート&ライフクリニック湘南平塚を開業。
◯ 岩本修一(株式会社DTG 代表取締役CEO|医師) 広島大学医学部医学科卒業。福岡和白病院、東京都立墨東病院で勤務。2014年より広島大学病院 総合内科・総合診療科 助教。2016年よりハイズ株式会社で病院経営およびヘルスケアビジネスのコンサルティングに従事。2020年1月よりおうちの診療所目黒でCXO/医師として経営参画し、採用の体制と運用を構築。2021年10月より株式会社DTGを創業し「採用体制の構築・運用支援サービス」を医療機関に提供している。経営学修士。採用を体系的に学ぶ会修了。
【取材・執筆=河村由実子、撮影=須合知也】