Slackを活用した院内外のコミュニケーション改革  〜ほーむけあクリニックDXの裏側〜|セミナーレポート

 
在宅医療の現場でDXに挑戦してみたいけれど、何から始めればいいのか迷っていませんか? 2024年11月28日、株式会社DTGが主催するオンラインセミナー「ほーむけあクリニックのDX 〜変革の裏側〜」が開催されました。 講師は、ほーむけあクリニック副院長で家庭医の塚本高裕先生。セミナーでは、「Slackを活用した院内コミュニケーション改革」をテーマに、チャットツールの具体的な事例と共に、その導入プロセスや現場での気づきについて話しました。 この記事では、セミナー当日の内容をもとに、医療現場でのDX実践のポイントや効果についてご紹介します。
11月28日開催「ほーむけあクリニックのDX 〜変革の裏側〜」セミナー
11月28日開催「ほーむけあクリニックのDX 〜変革の裏側〜」セミナー
 

セミナー概要

日程:2024年11月28日(木) 開催場所:オンラインZoom テーマ:在宅医療 講師:塚本高裕(ほーむけあクリニック副院長) 座長:岩本修一(株式会社DTG代表取締役CEO/おうちの診療所 医師)
 
DTGセミナーとは
医療機関における「DX」「採用」「組織・人事」「在宅医療」の4つのテーマで、定期的にセミナーを開催しています。講師による講義とゲストとのトークセッションで構成された1時間のセミナーです。Peatixにて開催告知を行っています。
 

講師紹介

◆ 塚本高裕先生
ほーむけあクリニック副院長
<経歴> 2011年広島大学卒。北海道家庭医療学センターで後期研修を行い、2017年に家庭医療専門医を取得。同年より現職のほーむけあクリニックの立ち上げに一般医師として参画。現在は副院長、院内DXチーム部門の医師として診療の効率化に頭を悩ませている。
 

座長紹介

◆ 岩本修一
株式会社DTG 代表取締役CEO/おうちの診療所 医師
<略歴> 広島大学医学部医学科卒業後、福岡和白病院、東京都立墨東病院で勤務。2014年より広島大学病院総合内科・総合診療科助教。2016年よりハイズ株式会社にて病院経営およびヘルスケアビジネスのコンサルティングに従事。2020年よりおうちの診療所でCXO・医師として経営戦略、採用・人事、オペレーション構築、マーケティング、財務会計と在宅診療業務に従事。2021年10月株式会社DTGを創業、代表取締役CEOに就任。
 
 

コミュニケーションツール「Slack」導入の背景

塚本先生が副院長を務めるほーむけあクリニックは、広島県広島市の中心部に位置する、入院・外来・在宅医療をおこなう有床診療所として、2017年に開院しました。塚本先生は開院当初から医師として運営に関与し、現場の課題に向き合いながら診療所を支えてきました。 開院当初、連絡手段は固定電話とPHSが中心でした。事務スタッフが連絡を受け、緊急性が高い場合は診療中の医師に電話をつなぎ、緊急性が低い場合はメモに記録し、診療後に対応するという流れが基本でした。 しかし、4階建ての階ごとに部門が分かれている構造上、診療中の医師への直接相談にハードルがあり、訪問診療で院内を不在にするスタッフやシフト制のスタッフがが多いこともあり、伝言漏れや聞き取り間違いなど、情報伝達の面でも課題がみられるようになっていました。 こうした状況を改善するため、塚本先生はチャットツールの導入に着手しました。情報の即時性と正確性を高め、緊急案件に迅速に対応できる仕組みづくりを目指すとともに、電話対応の負担軽減や非出勤日のスタッフを含めた情報共有をスムーズに行う体制を整えることを目的としました。
広島県広島市にある有床診療所「ほーむけあクリニック」
広島県広島市にある有床診療所「ほーむけあクリニック」
 
開院当初の連絡手段
開院当初の連絡手段
 
 
 

Slack導入の実際:

ツール選定について

さまざまなツールの中から「Slack」を選んだ理由は、その「手軽さ」と「親しみやすさ」でした。無料で始められること、メールアドレスさえあれば利用可能なこと、さらには直感的なデザインやスタンプ機能の使いやすさが選定の決め手になったと話します。 たとえば、Slackではオリジナルスタンプを登録する機能があります。連絡に対する返信を、テキストではなく「あとで対応」「代行OK」といったスタンプを使うことで、クリックひとつでやりとりを完結できるのが魅力の一つです。効率的でストレスの少ないコミュニケーションが可能になり、現場でもすぐに活用が広がったといいます。
 
 

導入の流れ・定着と拡大

Slack導入は、以下の3つのポイントを意識して進められました。
  • 少人数でのトライアル
  • 効果測定のベンチマーク設定
  • 丁寧な導入サポート
 
まずはコミュニケーションについて課題の多かった訪問診療チームで、少人数のトライアルからスタート。メンバーは比較的若く、新しいツールへの適応もスムーズでした。 トライアル中には、導入の効果を数値で測定できるよう、電話件数の減少など具体的なベンチマークを設定。この数値化された成果は、意思決定権を持つ院長へプレゼンテーションする時に使えるだけでなく、他のスタッフにも「これは便利そう!」とモチベーションを高めるきっかけとしても有用でした。 導入時には、利用ルールや操作方法を分かりやすく伝えるため、動画を作成して共有。さらに、朝礼で少しずつ実践を重ねる形を取り、無理なく習慣化できるよう工夫がなされました。 こうした丁寧なサポートと、スタッフからのフィードバックを活かしながら、徐々に院内全体、さらには薬局や訪問看護ステーションといった院外の関係者にも徐々に拡大していきました。
 
 

導入による効果

Slackの導入により、緊急性の高い案件への対応スピードが格段に向上しました。これまで月に1件程度発生していた対応遅れが、ほぼゼロに。また、伝言ゲームにならない文字ベースのコミュニケーションに切り替えたことで、聞き間違いや情報伝達のミスも解消されました。 さらに、薬局からの疑義照会にかかる電話件数にも大きな変化がありました。導入前後で、月に約100件もの電話対応が削減されたという結果でした。 電話による作業中断が減ったことで、スタッフのストレス軽減や、連絡に対する心理的ハードルの低下も実現しました。「以前は医師に電話する際は心理的な抵抗があったが、今は気軽にメッセージできるようになった」というスタッフの声もあり、塚本先生は「想像以上に医師への電話に対する心理的な壁が存在していたことに気づかされた」と振り返ります。 さらに、勤務日ではないスタッフにも、漏れなく連絡事項を伝えられるようになった点も大きな変化でした。これらは、スタッフの負担を軽減するだけでなく、コミュニケーションの精度向上や業務全体の効率化にも大きく貢献しています。
 
 

導入期の課題と改善点

Slack導入初期には、Slackを中心としたやりとりに移行した結果、「Slackの通知の見落としで、やりとりが途絶えてしまう」のが問題として挙がりました。これに対し、一定時間が経過した際にリマインドを行うルールを設けるほか、PC設定で通知ポップアップの表示時間を延長するなどの通知設定変更による対策が講じられました。この取り組みにより、課題は徐々に改善されていきました。 院外の事業所との連携に関しては、現在のところ、やりとりが多い薬局や一部の訪問看護ステーションに限定されています。連携する事業所の数は膨大ですべての事業所に導入することは、導入時の説明にコストがかかり過ぎたり、既に先方で別のツールが導入されている場合には調整が難しくなったりすることがあります。そこで、Slack導入のメリットを感じやすいやりとりが多い事業所・関係性が強い事業所に絞っているということでした。 こうした課題を踏まえ、院外連携を進める際の有効なアプローチとして、まずは「主要な事業所との連携強化」や「部分的なトライアルからの導入」が費用対効果の面で適していると考えられます。また、地域によっては行政や医師会が主導してツールの統一を図っています。その場合は、地域標準のツールを導入することでさらなる連携強化も期待できます。 さらに、文字ベースのコミュニケーションについては、複雑な内容や相互理解が必要な場面には不向きです。そのため、ほーむけあクリニックでは、部門長クラスのスタッフが対面でミーティングを行う場は継続して確保しています。用途に応じて対面と非対面を使い分ける工夫が必要だと伝えられました。
 

まとめ

本セミナーでは、ほーむけあクリニックの実践をもとに、「Slack」を活用した院内コミュニケーション、院内学習、研修医教育について、具体的な事例を交えながら詳しく解説しました。 チャットツールの導入により、緊急性の高い案件への対応スピードが向上し、スタッフの心理的負担が軽減されました。また、電話対応の削減や情報共有の効率化によって、業務全体の流れがよりスムーズになったことも伝えられました。一方で、Slack導入後に通知見落とし対策や院外連携の範囲拡大といった運用改善を続けていることが印象的でした。 どのような組織でも、現場の課題を丁寧に拾い上げ、ツールを適切に運用することで確かな成果を生むことができます。私たちDTGは、貴院の在宅診療がより効率的に行えるよう、全力でサポートいたします。 次回のDTGセミナーは、2025年1月23日(木)19時から「DX」をテーマに開催します。ゲストは、森維久郎先⽣です。2024年6月21日に開催した際の映像をプレミアムカット版でお送りいたします。 詳細は12月中にPeatixページで公開されますので、アカウントをフォローしておくと通知が受け取れます。ぜひご確認ください。
 
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