社長病の特効薬!「MBMプログラム」を突破口にこれからの医療経営について考える 〜ほーむけあクリニック横林院長×DTG岩本代表〜

 
 
医療を取り巻く環境変化や技術の進歩により、医療現場では常に知識のアップデートや変化が求められます。そのため、高い視座と広い視野、さらには周囲を巻き込む行動力を持つリーダーが、現場を牽引するために欠かせません。 今回は、「より強いチームをつくる」ために、株式会社DTGが提供する「メディカル・ビジネス・マネジメント・プログラム(医療機関マネジメント人材育成プログラム)」を導入した広島県広島市のほーむけあクリニックに取材に伺いました。
 
横林院長と講師の岩本先生(株式会社DTG代表)が9ヶ月間を振り返りながら語る現場のリアルから「これからの医療経営」のヒントを探ります。
 
 
 
◯横林賢一(ほーむけあクリニック院長|家庭医療専門医、在宅医療専門医、医学博士) 2003年広島大学医学部医学科卒。麻生飯塚病院(福岡)にて初期研修,CFMD(東京)にて家庭医療後期研修および在宅フェローシップ修了後、2010年より広島大学病院総合内科・総合診療科教員。同年、広島大学家庭医療後期研修プログラムを立ち上げディレクターに就任。2015年よりHarvard School of Public Healthに留学し、健康の社会的決定要因等に関する研究を行う。2017年にコミュニティカフェを併設した有床診療所「ほーむけあクリニック」を開設、院長に就任。
 
◯岩本修一(株式会社DTG代表取締役CEO|医師、経営学修士) 広島大学医学部医学科卒業後、福岡和白病院、東京都立墨東病院で勤務。2014年より広島大学病院総合内科・総合診療科助教。2016年よりハイズ株式会社にて病院経営およびヘルスケアビジネスのコンサルティングに従事。2020年よりおうちの診療所目黒でCXO・医師として経営戦略、採用・人事、オペレーション構築、マーケティング、財務会計と在宅診療業務に従事。2021年10月株式会社DTGを創業、代表取締役CEOに就任。

 

withコロナを経て、新たな診療所経営を見据えた第一歩

広島県広島市中区にある有床診療所ほーむけあクリニック。内科・小児科を中心とした総合診療と皮膚科・美容皮膚科の外来、訪問診療、院診療を行っている。4名の内科常勤医、1名の皮膚科専門医をはじめとした計42名のスタッフが在籍中。訪問診療では250名以上の患者を担当し、個室を中心とした12床の病棟では急性期治療から緩和ケア、レスパイト入院など幅広く対応している。
広島県広島市中区にある有床診療所ほーむけあクリニック。内科・小児科を中心とした総合診療と皮膚科・美容皮膚科の外来、訪問診療、院診療を行っている。4名の内科常勤医、1名の皮膚科専門医をはじめとした計42名のスタッフが在籍中。訪問診療では250名以上の患者を担当し、個室を中心とした12床の病棟では急性期治療から緩和ケア、レスパイト入院など幅広く対応している。

―― 今回、ほーむけあクリニックで「メディカル・ビジネス・マネジメントプログラム(以下、MBMプログラム)」導入に至った背景を教えてください。
 
横林院長 (以下、横林)
2022年2月に、岩本先生の連載『これからの医療とDX』を読んだのがきっかけです。岩本先生との出会いは10年以上前で定期的に連絡もとる仲ですが、連載のなかでふれていた「医療現場のDX(関連記事:診療所のDX実践編)」や「人材マネジメント」がとても気になり、私から連絡をしました。その時、私はクリニックの経営において「もう一歩先にいきたい」と考えており、特にマネジメントにおいては変化の必要性を強く感じていました。
 
2017年の開業以来、ほーむけあクリニックでの自身のマネジメントスタイルとして「サーバントリーダーシップ(※1)」を大切にしてきました。しかし、2020年のCOVID-19感染流行に伴い、これまでのやり方を変えざるを得ない状況となりました。あらゆる情報が次々と入ってくる現場では、素早い判断と指示が必要とされたのです。トップダウンで決めていく形に切り替えたことで、当時の大変な状況は乗り越えられたように思います。
 
流行から2年が経過した2022年春、現場が少し落ち着いたタイミングで私はリーダーシップについて再度考えました。岩本先生ともお話するなかで、まずは各現場リーダーたちにマネジメントの視点を持ってもらうことが必要だと考え、MBMプログラム導入を決めました。
 
 
―― MBMプログラムとは、一体どのような研修なのでしょうか。
 
岩本さん(以下、岩本)
「MBMプログラム」は、医療現場のリーダーや管理職を自院から輩出することを目的に行っています。ビジネススクールの基礎科目をもとに医療従事者向けにコンパクトにまとめた人材育成プログラムになります。ロジカルシンキングや人材マネジメント、マーケティングや会計など、医療機関のリーダーや管理者に必要なマネジメント技術をワークショップやケースメソッド(※2)を通して半年から1年かけて学びます。
 
そもそも、医師である私がマネジメントに関心をもったのは15年前の研修医のときでした。当時の研修病院はスムーズなオペレーションを設計・運用しており、研修医にも経営会議への参加を促していました。そのため、臨床だけではなく経営のマインドも形成されたと感じています。その後に勤務した病院でも、マネジメントの視点をもって現場経験を積みました。
 
様々なマネジメント事案に携わるなかで、「同じように悩む医療現場を支援したい」と思い、ハイズ株式会社に入社し、病院経営コンサルティングの世界に足を踏み入れました。2022年に株式会社DTGを創業して以来、あらゆる医療現場の人材育成やDX導入のサポートを行っています。
 
 
実際にほーむけあクリニックが実践したカリキュラム
参加者は、看護部、事務、リハビリ、介護など様々な部門に所属するメンバー15名。感染状況に合わせて柔軟な形式で開催した。
実際にほーむけあクリニックが実践したカリキュラム 参加者は、看護部、事務、リハビリ、介護など様々な部門に所属するメンバー15名。感染状況に合わせて柔軟な形式で開催した。
 
 
 

チーム力がさらに向上!マネジメントにおける共通言語を持つ意味

 

―― 9ヶ月間の研修を通して、現場に変化はみられましたか?具体的なエピソードもあれば教えて下さい。
 
横林
マネジメントに関する「共通言語」や「共通認識」が持てたことで、以前よりメンバーとよりフラットに会話ができるようになりました。指示や依頼の目的や具体的な内容を意識して伝えられるようになったため、全体としてコミュニケーションがスムーズに行えるようになっているのを実感します。研修中は毎回終了後に振り返りをおこなうのですが、そこでお互いが「こんなこと考えているんだ」というのが分かったことで、職員同士の相互理解が進んでチーム力も上がったように思います。
 
参加者同士の意見の違いを感じられるケースメッドがあったことや、あえてメッセージを絞り、詰め込みすぎない研修内容だったのも非常に良かったです。岩本先生のなかにはたくさんの引き出しがあるのだけれど、参加者の様子をみながら出したり出さなかったりしているのが分かりました。
 
私としては、初回のマネジメント総論の講義で、「マネジメントとは何か」について岩本先生がしっかりとお話してくれたのがとても嬉しかったです。考え方やその戦略について、私の言いたいことを代弁してもらえたような感覚でした。企画者としては、メンバーに伝わって欲しい以上のことが伝わった素晴らしいプログラムだったと思います。
岩本
横林先生がおっしゃるとおり、各授業の内容は検討を重ねて「本当に大切なこと」だけに削り込んでいます。また、ケースメソッドを通してみんなで考えながら進めていけるように設計しています。 ほーむけあクリニックは、スタッフの皆さんが明るく、診療所全体が温かい雰囲気に包まれています。その上で、「現場の悩みを学んだ方法で解決してみよう」と積極的に実践されているのがとても嬉しかったです。
 
もともとある良い土壌から、少しずつ芽が出ているような感覚を覚えました。自分の役割や目標を明確にすることで組織はより強くなるということを、今回皆さんの変化する姿を間近で見ながら改めて感じることができました。

今後の課題と展望


―― 組織改革に向けて歩むなかで、難しかったことや大変だったことはありますか? また、今後チャレンジしたいこともあれば教えて下さい。 横林 組織改革をするにあたり、私としては「待つ」ことの難しさを実感しました。コロナ禍で、自分で意思決定したことをそのまま指示として出すトップダウン型の運営は、私にとっては正直「楽」ではありました。
 
あらゆる情報のなかから先を読んで決めるのが好きというのもあるかもしれません。しかし、このままでは組織改革は進みません。少しずつ権限移譲をするうえで、まずは自分自身の大きな意識改革が必要でした。
 
今後も、マネジメント人材の育成には継続的に力をいれていきたいと考えています。学びが定着するには時間もかかります。さらなるチーム力向上のため、定期的に職員が集まる機会を設けながら丁寧に進めていきたいです。
 
また、役職制度も整備したいと考えています。そのための基準の一つに、MBMプログラムのようなマネジメント研修の受講があっても良いかもしれません。モチベーションがあり、実績を残せる人たちがきちんと評価されるシステムを構築していきたいです。
 
組織やチームには、それぞれ役割があります。私はその役割の中の「リーダー」という立場をたまたま担っているだけに過ぎません。開業当初から描いていたサーバントリーダーシップがうまく機能するよう、これからも組織づくりに力を入れていきます。 岩本 メンバーの成長を考えると、どこまで口を出したら良いかというのは悩みますよね。おそらく研修開始当時は、ご自身の発言を我慢していたのではないでしょうか。
 
横林先生が開業当初から大切にされていたサーバントリーダーシップは、今のほーむけあクリニックのメンバーであれば、もっとやりやすくなっていると思います。自分たちで考え、学びあい、高めあい、行動する。そんな組織であると、私は思います。

横林先生からメッセージ


――最後に、同じように現場の課題感を抱え、マネジメントに興味を持っている医療関係者に向けてメッセージがあればお願いします。
 
横林 MBMプログラムを受けてみるといいですよ!」と伝えたいですね。社長や経営者がひとりで受ける講座もあると思います。それらは個人をブラッシュアップするのには良いのですが、やればやるほど社長病になってしまうと思うんです。社長病、つまりトップがますます孤立してしまう状態は、正直とてもしんどいです。 経営も組織づくりも自分にしかできない「裸の王様」状態になると良くないと思います。コロナ禍でトップダウン式に変えた危うさは自分自身「まずいな」と感じていました。それを脱却するために、まずは院内のマネジメント人材が成長し、一緒に歩めるようになることを期待しています。 岩本先生が提供するMBMプログラムは「社長病の特効薬」になると思います。共通言語がもてることで、日々のマネジメントや経営の難しさも共有できて、孤立から救われます。 岩本先生でなかったら、外部の人に入ってもらってマネジメントを強化しようという勇気は出せていなかったと思います。リーダーが楽になり組織力がアップする研修に出会えて、とても感謝しています。
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・「これからの医療とDX」マガジン
※1 サーバントリーダーシップとは、仲間の能力を肯定し、力を最大限に発揮するための環境づくりに奉仕・支援するリーダーシップのスタイル
※2 特定の学習目標を達成するために、意図的に構成された教材(ケース)を用いて学習者同士の討議を繰り返すことで、実践力を身につける教育手法
【取材・執筆=河村由実子、撮影=織田泰正】
 
 
 

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