DXで進化する医療機関の新人教育!臨床も経営もよくなる効果的なオンボーディングの実際|セミナーレポート

 
2023年7月21日、株式会社DTGは「新人教育とデジタル」をテーマにオンラインセミナーを開催しました。おうちの診療所の坂本夏奈子さんと田村留美さん、富田浜病院リハビリテーション課の西村里衣子さんと寺本祐二郎さんの4名をゲストに迎え、「医療機関におけるオンボーディングの実際」についてDTG代表岩本とトークセッションを行いました。本記事では、セミナーの様子をレポートします。
 

登壇者

坂本夏奈子さん
おうちの診療所看護師リーダー、教育メンター。救急、ICU、美容外科、有料老人ホームなどでの勤務を経て、おうちの診療所に参画。診療所の立ち上げ当初から、看護師として在宅診療看護の形を構築し、中心的な存在として組織を支えている。
 
田村留美さん
皮膚・排泄ケア認定看護師、特定行為看護師。30年以上、急性期病棟および外来看護師として勤務した後、2022年10月よりおうちの診療所に参画。現在は在宅診療看護とともに、WOC看護師として活動している。新人教育プログラムをメンティーとして受講。
 
西村里衣子さん
富田浜病院リハビリテーション部部長、作業療法士。新人教育プログラムの開発・浸透プロジェクトを指揮。PT・OT・ST・柔道整復師のステップ表を作成し、プロジェクトメンバー3名とともに部内での浸透に尽力している。
 
寺本祐二郎さん
富田浜病院リハビリテーション課係長、理学療法士。新人教育プログラムの開発・浸透プロジェクトメンバー。自身のチームにおいて目標管理と教育で積極的に改善活動を進め、課全体の活性化に寄与している。
 
岩本修一 講師 / ファシリテーター
株式会社DTG代表取締役CEO|おうちの診療所目黒|医師、経営学修士
 
 
 

新人教育とデジタル

セミナーは、DTG代表岩本による「新人教育におけるデジタルトランスフォーメーション」に関する講義からスタートしました。
 
岩本
医療機関におけるデジタルトランスフォーメーションは、デジタルやデータを活用して業務フローを作り変えて手間を減らすことや、問題を発見しやすくすることで解決をより迅速にすることを目的におこなわれます。 新人教育においては、特に問題解決のスピードを上げることが重要とされます。従来、医療機関における問題解決は、問題、発見、解決の過程をすべて人の勘や経験頼みでおこなっていました。しかし、今後は問題をより発見しやすくし、解決へのスピードを速めるために、デジタルを活用していく必要があります。 新人教育において、新しく入った仲間の環境への順応を促進することを「オンボーディング」といいます。今回は、オンボーディングの設計および運用について、2つの医療機関の事例をもとに学んでいきたいと思います。
 
 

事例1:在宅診療所でのオンボーディングの実際|おうちの診療所

本セッションでは、看護師の坂本さんと田村さんに、在宅診療所におけるデジタルを活用した教育の実際についてお話を伺いました。おうちの診療所の事例では、新人教育の対象が「中途採用の看護師」です。
岩本
以前、おうちの診療所では、マンツーマンのOJTによって教育を行っていました。しかし、組織拡大に伴い看護師が急増し、教育係であるメンターの負担が大きくなったため、うまくいかない状況が生じました。また、マニュアル化にも取り組みましたが、メンターがうまく活用できず、明確なゴールや共通言語もなかったため、チームでうまくサポートすることができませんでした。さらに、教育を現場任せにしていたことが最大の反省点です。実際に現場で教育にあたっていた坂本さんは、この状況についてどう思われますか?
坂本さん(以下、坂本)
現在の体制で新人教育をする以前は、とても大変でした。看護師が入職するたびに、同じことを毎回試行錯誤しながら繰り返していたため、非効率的な作業もありました。また、教えられる側であるメンティーから「いつまでに何ができるようになればよいか」と確認されたときに適切に答えることができなかったこともありました。メンターの私自身が、どんな目標に対して、どれくらいのスピードで進んでいったら良いのか分かっていなかったと思います。さらに、現時点での到達度や進行状況に関する共通言語がなかったため、周囲に相談したり、サポートを得る方法も見つけられていない状況でした。
岩本
業務を覚えていく過程でできていない部分があっても、次につながるような話し合いになっていない状況があったのですね。 この状況を改善すべく、おうちの診療所では「看護師ステップ表」を作成し、これに基づいてオンボーディングを運用するようにしました。看護師ステップ表は、看護師のスキルを業務ごとに5つの項目(診療同行、調整業務、電話対応、バックオフィス業務、生産性)に分解して、さらにそれらを0〜4の5つのステップ(進捗度)に分解したものです。
この表を用いた新しい運用で、これまで5名の方にオンボーディングをおこなってきました。5項目でStep3までクリアする期間を3ヶ月を目安として設定しています。実際にこのオンボーディングプログラムを導入したことにより、現場ではどんな変化が見られましたか?
坂本
到達目標と進行状況がみえるようになったことで、私から周りに共有や相談がしやすくなりました。教育担当者を中心としたチームでの新人教育になったと思います。教育の進捗状況をデータで確認できるようになり、それをみながら毎週15〜30分のミーティングを設けて、進捗と次週のアクションを話し合い、指導内容や配置に反映できるようになりました。 目標が明確になり、ステップごとの進捗状況が見えるようになったことで、指導者が一人で抱えこむことがなくなりました。また、在宅診療の看護業務について共通認識や共通言語ができたのも大きな変化です。これまでは、私の感覚でやっていたので、次の人に引き継ぎしづらい状況がありました。しかし今では、個々のメンティーに対して何ができて、何ができないかを伝えられるようになり、改善策にもつながりやすく、教えるのがよりスムーズになりました。
岩本
メンティーとメンター間でのステップのすり合わせについては、どのように実施されていたのでしょうか?
坂本
基本的には、週に1回、メンターとメンティーで話して、進捗状況や問題点などをすり合わせています。よくあるのが、メンティーの評価がメンターのものよりも過小評価になってしまうことです。メンターは「今のステップはもう十分だから、次のステップに進めるだろう」と判断するのですが、メンティー自身がまだ十分にできていないと思っていたり、実施に不安を抱えていたりする場合があります。この場合、二人で項目ごとに丁寧に確認し、できていない部分に関しては、次週に向けてお互いに目標をすり合わせます。各ステップをクリアするまでの目安の期間を設けていますが、進捗状況には個人差があるため、実際にはそれぞれの経験や感覚なども考慮して、話し合って進めていきます。
岩本:
入職当時、実際にこのプログラムで覚えていった田村さんは、いかがですか?
田村さん:
私は自分を過小評価しがちで、石橋を叩いて渡るような性格です。ステップについて話し合う場では、坂本さんがメンターとしての評価を伝える前に、自分自身の評価を聞いてくれました。そのような対話をしてくれていたからこそ、ステップの進捗について自分自身が納得して進めることができたと思います。自信を持って「自立してできる」と言えるまで、じっくりと待ってもらいました。合意形成しながら進めていただき、とてもありがたかったです。

事例2:病院でのオンボーディングの実際|富田浜病院リハビリテーション課

おうちの診療所に続く本セッションでは、作業療法士の西村さんと理学療法士の寺本さんに、病院におけるオンボーディングについてデジタル活用をからめてお話を伺いました。富田浜病院リハビリテーション課の事例では、新人教育の対象は「新卒採用のセラピスト」です。(組織体制は、リハビリテーション課全体で80名、新人が10名の構成)
岩本
富田浜病院リハビリテーション課では、従来は新人に対してマンツーマンでメンターをつけ、OJTを主体とする教育体制をとっていました。一部をマニュアル化し、機能評価シートや生活機能評価などのフォーマットも使用していましたが、うまく機能しない状況がありました。西村さん、その背景についてお聞きしてもよろしいでしょうか。
西村さん(以下、西村)
新人教育がメンターに任され、チームとしての関わりが薄く、教育の成果が判断できないという状況がありました。メンターに負担がかかり過ぎて、メンター自身のリハビリ実施機会が減ってしまう状況もありました。また、メンターによって成長速度や指導内容に差異が生じている状況もありました。
岩本
これらの問題を解決するために、富田浜病院では「リハビリテーション課ステップ表」を作成し、課全体の新人教育の体制や方法を刷新しました。ステップ表は、セラピストのスキルを職種ごとに7つの項目(患者難易度、リハビリ手技、リスク管理など)に分解し、それらをさらに0〜7の8つのステップに分解しました。新人セラピストの教育進捗状況を可視化し、チームで教育できる基盤として使用しました。現場での実際の進め方はどのようになっていたのでしょうか?

西村
ステップ表の作成としては、最初は岩本先生とともに基礎をつくり、細かいところは現場のメンバーと話して修正を加えていきました。運用開始後は、日頃からメンターとメンティーで進捗状況についてコミュニケーションを取り、週に1回行われるチームミーティングでも進捗状況を共有しました。また、月に1回のリハビリテーション課役職者のミーティングでも各新人セラピストの進捗状況を共有し、進みが遅い人に対してはその原因分析なども話し合いました。現在も、ステップ表は、現場の声を聞きながら適宜修正を加えています。
岩本:
富田浜病院では、実際にステップ表の運用を開始して、1、3、6ヶ月後にアンケートを実施しました。その中では、メンターからは「教えやすくなった」「負担が減った」という喜びの声があり、「リハビリの質があがった」「取得単位数が増えた」といった効果も見られました。質の向上や単位数の増加には、どのような背景があるのでしょうか。

寺本さん
新人セラピストのスキルごとの到達目標と進捗状況を確認できるようになったことで、リハビリスタッフ全体のボトムアップにつながり、リハビリの質の向上が図られたという印象を受けました。新人スタッフは、全員が最低限必要なスキルを習得することができるようになったように思います。また、ステップ表の他にも、機能評価などを行うアセスメントシートを更新したことで、質の向上にもつながった面もあると思います。 取得単位数については、リハビリテーション課全体の年間平均取得単位数が1人日あたり約1単位増加し、単位数の目標達成と売上増加にも寄与しました。チームとして新人スタッフの取得単位数を意識したことで、新人だけでなく、先輩のセラピストたちについても単位数の目標達成に対する意識が高まったことが課全体に効果がでた要因だろうと考えます。また、同時に、単位数目標達成についても課として取り組んでいたため、相乗効果もあったと思います。

まとめ

今回は、デジタルやデータを活用したことで効果的なオンボーディングの実現に成功した2つの医療機関を紹介しました。 新人教育の成功には、ゴール(目標設定)、システム(運用を見据えた設計)、現場の運用(実行力・継続力)の3つの要素が欠かせません。今回紹介した2つの医療機関では、評価基準の明確化、データに基づく評価の実施、担当者を主としたチーム体制、建設的なディスカッションが実現されていました。 新人教育(オンボーディング)の設計および運用をうまく行うことで、教育体制や生産性向上、売上増加につながった事例をご紹介しました。
 
 
【文=河村由実子】
 
 
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