ナッジで始める組織マネジメント 〜⾏動科学を活⽤した診療所運営のヒント〜|セミナーレポート
医療機関の経営や組織運営にお悩みではありませんか? 2024年8月22日、株式会社DTGは「ナッジで始める組織マネジメント」をテーマに、オンラインセミナーを開催しました。
トークゲストには、株式会社omnihealの代表取締役であり、おうちの診療所中野の院長を務める石井洋介先生を迎え、DTG代表の岩本とのトークセッションを行いました。
本記事では、セミナー当日の内容から、行動科学の知見を活用した「ナッジ」という手法を用いて、どのようにしてより効果的な組織マネジメントを実現できるのかをご紹介します。
セミナー概要
日程:2024年8月22日(木) 開催場所:オンラインZoom テーマ:医療機関の組織マネジメント 講師:岩本修一(株式会社DTG代表取締役CEO/おうちの診療所 医師 ) トークゲスト:石井洋介(株式会社omniheal代表取締役/おうちの診療所中野 院長 )
DTGセミナーとは
医療機関における「DX」「採用」「組織・人事」「在宅医療」の4つのテーマで、定期的にセミナーを開催しています。講師による講義とゲストとのトークセッションで構成された1時間のセミナーです。Peatixにて開催告知を行っています。
トークゲスト紹介
◆ 石井洋介先生
株式会社omniheal 代表取締役/おうちの診療所中野 院長
<経歴> 2010年高知大学卒。消化器外科医として手術をこなす中で、大腸癌などの知識普及を目的としたスマホゲーム「うんコレ」の開発・監修、「日本うんこ学会」の設立を行う。厚生労働省医系技官や経営コンサルタント等を経て現職。おうちの診療所中野にて院長、秋葉原内科saveクリニックにて共同代表を務める。著書に『19歳で人工肛門、偏差値30の僕が医師になって考えたこと』(PHP研究所、2018年)など。
講師紹介
◆ 岩本修一
株式会社DTG 代表取締役CEO/おうちの診療所 医師
<略歴> 広島大学医学部医学科卒業後、福岡和白病院、東京都立墨東病院で勤務。2014年より広島大学病院総合内科・総合診療科助教。2016年よりハイズ株式会社にて病院経営およびヘルスケアビジネスのコンサルティングに従事。2020年よりおうちの診療所でCXO・医師として経営戦略、採用・人事、オペレーション構築、マーケティング、財務会計と在宅診療業務に従事。2021年10月株式会社DTGを創業、代表取締役CEOに就任。
組織づくりと組織マネジメント
「おうちの診療所」の取り組み
ゲストの石井先生と講師の岩本が所属する在宅診療所「おうちの診療所」は、都市部の地域包括ケアシステムを整備するというミッションを掲げ、2020年5月に目黒を拠点に活動を開始しました。2022年5月には中野診療所を開業、2023年5月には中目黒に事務所を開設し、事業と組織は徐々に拡大し、現在では50名以上のスタッフが働いています。
おうちの診療所では、「関係の質を高める」、「診療の質を一定に保つ」、「まずは自分たちがワクワクしながら働く」という行動指針を掲げ、これを実行するためにさまざまな取り組みを行っています。
2024年に入り、おうちの診療所では組織マネジメントの面で大きく方向転換をしたそうです。ナッジ施策やリソース管理の定期化、組織構造の変更(マネジメント体制の変更)、マネジメント講座、経理・労務ワークフローの整理など、多岐にわたる施策を実行してきています。
石井先生は、「少人数のときはコントロールできていたことが、スタッフの人数が増え、診療所の数がと増えていく中で、リアルなコミュニケーションが取りづらくなり、マネジメントが複雑になってきたことを実感しました。そのため、各拠点にミドルマネジャーを配置し、組織化を進めることにしました。今まさに、次のフェーズに進んでいると感じています」と語りました。
組織の段階に応じて変化するマネジメント
最初におうちの診療所の組織づくりを進めるきっかけとなったのは、離職者がでてきたときでした。組織が拡大する中で成長の鈍化を感じ、これ以上の成長には組織の構造化が必要だと痛感したそうです。
石井先生は、これまで「個々人をどうモチベートするか」といった「チームマネジメント」に力を入れてきましたが、組織が拡大するにつれて「組織全体のマネジメント」へと意識が変わったと振り返ります。
組織が⼀定の規模に達したとき、その運営方法や考え方を転換することが、無理なく組織を拡⼤していくために不可欠です。組織によって違いもありますが、一般的には、スタッフの規模が15人から30人程度になると、この変化が必要になることが多いとされています。
これまでの問題解決が蓄積され、ノウハウとしてたまり、それらが集まって組織基盤を形成することで、安定した強い組織ができます。マネジメントにおいて重要なのは、「改善策を実行すること」と「意思決定と実⾏のサイクルを回し続けること」です。これらが組織マネジメントのカギとなります。
マネジメントにおける「ナッジ」
組織的に仕事を進めていく際のポイントは次のとおりです。
- タスクの期限を決める
- タスクの担当者(責任者)を決める
- タスクをいつでも確認できるようにする
- 期限で、実⾏の有無を確認する
これらができるように、「人に任せる」ことが必要になります。任せる際の基本は、「仕事を振る・渡すこと」と「実施と成果を確認すること」です。⼈に任せて機能させることが、組織マネジメントにおいて非常に重要です。
ここで役立つのが「ナッジ」の手法です。マネジメント実務においては、ナッジは「委ねる」と「指示する」の中間に位置づけてつかうとよいと考えます。
⾏動科学におけるナッジとは、「選択を禁じることも経済的なインセンティブを⼤きく変えることもなく、⼈々の⾏動を予測可能な形で変えること(※1) 」とされています。
マネジメントにおけるナッジは、「肘で⼩突く程度の声かけで⾏動を促すこと」と捉えることができます。たとえば、依頼した仕事について担当者に「あれ、どうなってる?」と軽く声をかけるだけでいいです。
ナッジの魅力は、その効率性と柔軟性にあります。消費エネルギーが少なく、相手の自由度が高いため、マルチタスクや人材育成に特に有効です。適切にナッジを活用することで、短期的には良い結果を早く得られるだけでなく、長期的にはチーム全体の成長を促進できるのです。
石井先生は、「ナッジの概念は知っていましたし、臨床や啓発アプリ開発では実際につかっていましたが、組織マネジメントに活用しようとは以前は思っていませんでした。しかし、岩本先生と話す中で『ナッジをマネジメントでつかうこと』が良い手法だと気づきました。当時は、いわゆる”マイクロマネジメント”か”丸投げ”の両極端になってしまうことが多くあったので、ナッジを取り入れ始めたことで仕事が進むようになったことを実感しています。
たとえば、これまで私は細かい指示出しが苦手で、『いい感じにしてくれない?』と伝えてしまうことが多かったので、まずはフォローの声かけの頻度を増やすところから始めました。『こんなタスクをお願いしたいんだけど』と依頼し、その後も『困っていることはある?』と進捗を確認します。このように変化させることで、徐々に、自分にあったマネジメントスタイルが見えてきました。これらはまさにケアする感覚と同じで、医療職には合っていると感じます」と話します。組織マネジメントにおいても「気にかけること」がカギとなるようです。
参考文献
※1)リチャード‧セイラー:NUDGE 実践 ⾏動経済学 完全版,日経BP,2022
まとめ
本セミナーでは、おうちの診療所の実践を通して、行動科学の知見を活用した「ナッジ」による効果的な組織マネジメントについて解説しました。組織全体の成長を目指し、改善策を実行することと、意思決定と実⾏サイクルを回し続けることが組織マネジメントにおいて重要だということが分かりました。
また、情報収集能力や分析能力が高くて改善策を見い出せても、実行できなかったら意味がありません。実行することで組織は前に進むので、「実行から始める」ことの大切さも併せて伝えられました。
組織の規模や業種を問わず、適切な手法とアプローチを選択することで、確実に成果を上げることができます。DTGは、貴院における組織マネジメントの最適化に向けて、豊富な経験と最新の知見を活かし、全力でサポートいたします。
次回のDTGセミナーは、2024年9月19日(木)19時から「在宅医療」をテーマに開催します。