デジタルで進化する在宅医療 〜疑義照会DXとスマートスケジューリング〜|セミナーレポート

在宅医療の現場で、疑義照会の電話対応や煩雑なスケジュール管理に困っていませんか? 2024年9月19日、株式会社DTGは「デジタルで進化する在宅医療」をテーマに、オンラインセミナーを開催しました。
トークゲストには、はやぶさ在宅クリニックの松下至誠先生を迎え、DTG代表の岩本とのトークセッションを行いました。
本記事では、セミナー当日の内容から、疑義照会のDXやクロスログを活用したスマートスケジューリングなど、デジタル技術を活用した在宅医療の最前線を、実際の導入事例を交ながらご紹介します。
セミナー概要
日程:2024年9月19日(木) 開催場所:オンラインZoom テーマ:在宅医療 講師:岩本修一(株式会社DTG代表取締役CEO/おうちの診療所 医師 ) トークゲスト:松下至誠(はやぶさ在宅クリニック 医師 )
DTGセミナーとは
医療機関における「DX」「採用」「組織・人事」「在宅医療」の4つのテーマで、定期的にセミナーを開催しています。講師による講義とゲストとのトークセッションで構成された1時間のセミナーです。Peatixにて開催告知を行っています。
トークゲスト紹介
◆ 松下至誠先生
はやぶさ在宅クリニック 医師
麻酔科専門医/日本慢性疼痛学会専門医
<経歴> 平成16年3月 昭和大学医学部 卒業 平成16年4月 八戸市立市民病院 初期研修・外科研修 平成19年4月 福岡和白病院 麻酔科 平成22年5月 貝塚病院麻酔科 麻酔科部長 平成31年4月 福岡脳神経外科病院 慢性疼痛治療科部長 令和4年11月 はやぶさ在宅クリニック 管理者
講師紹介
◆ 岩本修一
株式会社DTG 代表取締役CEO/おうちの診療所 医師
<略歴> 広島大学医学部医学科卒業後、福岡和白病院、東京都立墨東病院で勤務。2014年より広島大学病院総合内科・総合診療科助教。2016年よりハイズ株式会社にて病院経営およびヘルスケアビジネスのコンサルティングに従事。2020年よりおうちの診療所でCXO・医師として経営戦略、採用・人事、オペレーション構築、マーケティング、財務会計と在宅診療業務に従事。2021年10月株式会社DTGを創業、代表取締役CEOに就任。
疑義照会DXとSlack活用
疑義照会DXの実際
「疑義照会」とは、薬剤師が処方箋に誤りや不明点を見つけた際に、医師に確認を行うプロセスを指します。これは患者を健康被害から守り、医療費削減にも貢献するため、薬剤師にとって非常に重要な業務のひとつです。
デジタルが取り入れられる前の在宅診療所での疑義照会の流れは、以下のとおりです。
- 薬剤師が在宅診療所に疑義照会の電話をする
- 診療所の事務(または看護師)が電話を受け、内容をメモする
- メモをもとに医師に確認し、指示を仰ぐ
- 医師の指示を受け、再び薬局に電話で伝える
このプロセスには時間がかかり、ときには配薬に影響がでることもあります。また、情報が「伝言ゲーム」のように伝わることで、聞き間違いや伝達ミスが起こるリスクもあります。医師にとっても、診療中に電話対応を求められるため、じっくりと考える時間がとれないという課題があります。
以下は、デジタルツールが取り入れられた後の疑義照会の流れです。
チャットツールを活用することで、薬局と診療所が直接やりとりできるようになり、医師と薬剤師のコミュニケーションが迅速化しました。ミスも減り、医療安全の面でも効果が期待されます。さらに、医師から薬剤師への相談もチャットで気軽にできるようになり、日常的なやりとりが増えることで、薬剤の効率的な利用も促進されています。
セミナーでは、実際に使用されているチャットツール(Slack)を活用したデモンストレーションが行われました。操作画面は非常にわかりやすく、医師も問い合わせごとに適宜返信できるため、情報のヌケモレを防げる点が強調されました。
さらに、松下先生は「以前はわざわざ連絡するほどでもなかった内容も、チャットだと気軽に伝えてもらえるようになり、そのおかげで薬剤の適切な管理ができるようになったと実感しています」とコメントされました。
Slack活用の実際
Slackは疑義照会だけでなく、院内のコミュニケーションにおいても幅広く活用されています。以下は、その具体的な事例です。
- ⼊退院情報の院内共有
- 訪問診療中の院内連絡
- 薬局の在庫状況の通知
- 朝カンファレンスの議題共有
- 患者の相談や紹介
チャットを活用することで、すべてのやりとりに「ログ」が残るため、「⾔った・⾔わない」のトラブルが解消されます。さらに、複数のスタッフが情報にアクセスできることで、医師の対応待ちによる業務の停滞も防ぎやすくなります。
テキストコミュニケーションが院内で浸透することで、職員たちはまず過去の記録を確認して問題解決を図ろうとする「ログ参照の文化」が育まれます。また、相⼿のタイミングを待たずに仕事を進められる「非同期の文化」も広がり、テキストコミュニケーションの浸透が「DXの組織文化の醸成」につながります。
スマートスケジューリング
在宅診療において、スケジュール管理やルート管理は非常に重要なタスクです。セミナーでは、在宅医療に特化したスケジュールとルート管理を支援するサービス「クロスログ」が紹介されました。
「クロスログ」は、電⼦カルテと⾃動連携し、患者情報をカレンダー形式で簡単に操作できるのが大きな魅力です。特に、在宅患者のスケジュール管理に特化しており、直感的に使える操作性が特徴です。
セミナーでは実際の活用事例も紹介され、患者情報をひと目で把握できるうえ、次回の診療に向けた申し送り事項は「メモ機能」で整理できるなど、効率的な活用方法が示されました。
「クロスログ」は導入から約1ヵ⽉で運⽤可能となり、2〜3ヶ⽉もすれば完全に現場に浸透します。誰でも使いやすく、メニューも見やすい設計のため、スムーズな運用が可能となります。
ただし、システム導⼊は「何を使うか」だけでなく、「誰がどのように運⽤するか」も重要です。たとえば、看護師の教育プログラムに調整業務を組み込むなど、全スタッフがスムーズに使いこなせる環境を整えることが必要です。
はやぶさ在宅クリニックの事例 〜課題解決策と成果〜
課題と解決策
福岡県福岡市にある「はやぶさクリニック」は、開業から1年ほど経った時点で以下のような課題に直面していました。
- 薬局との連携において、伝言ミスや伝達漏れが発生し、その対応で多くのスタッフの時間が奪われる
- 患者の増加に伴い、事務や看護師の人員不足が見込まれる
- 患者の増加に伴い、医師のキャパシティが限界に達しそう
松下先生は、当時を振り返り、「患者さんが増えるにつれて、疑義照会に関する電話が1日に10〜30件あり、業務が中断することが多くありました。電話対応に追われる事務スタッフも大変だし、言い間違いも生じるし、悪循環でとても悩んでいました。今後3ヵ月でさらに患者が増えると、やり取りも増えてミスが増える。そうなると、現場の手が回らなくなってしまうと悩みの種でした」と語っています。

このような課題に対して、クリニックではチャットツールによる疑義照会DXの導入と、スマートスケジューリングを開始しました。
在宅医療DXの成果
導入から約3ヵ⽉で、業務効率化と安定した運⽤を実現しました。疑義照会の改善により、スタッフの業務負担が減り、「⾔った・⾔わない問題」も解消されました。電話対応件数は90%以上削減され、複雑な案件のみ電話で対応するなど、柔軟な運用が可能となりました。
さらに、スマートスケジューリングの導入により、スケジュールとルート管理が最適化され、業務時間の短縮と訪問件数の増加が実現しました。スタッフからも「予定を組むときの快適さが全然違う」という声もありました。
松下先生から「今では、Slackとクロスログがないと仕事が成り立たないくらいに重要なものとなっています。うまく言えないようなストレスも減ります。導入も思ったよりスムーズにできました。『疑義照会電話』と『スケジュール調整』に苦労している医療機関は、導入しない理由はないと思います」と締めくくりました。
まとめ
本セミナーでは、はやぶさ在宅クリニックの実践を通して、疑義照会DXや「クロスログ」を活用したスマートスケジューリングによる在宅医療の効率化について解説しました。
チャットツールの導入により、スタッフの業務負担が軽減され、患者さんに迅速かつ適切な対応が行えることがわかりました。また、スケジュール管理やルート管理をデジタル化することで、業務時間の短縮と訪問件数の増加も実現しました。
どのような組織でも、適切な手法とアプローチを取ることで、確実に成果を上げることができます。私たちDTGは、貴院の在宅診療がより効率的に行えるよう、全力でサポートいたします。
次回のDTGセミナーは、2024年11月28日(木)18時から「DX」をテーマに開催します。講師は、ほーむけあクリニックの塚本中⾼裕先⽣です。
詳細は10月中旬にPeatixページで公開されますので、アカウントをフォローしておくと通知が受け取れます。ぜひご確認ください。